【2016 8月】 吉永 晴彦講師 (エビス・版画LABO講師)

みなさま初めまして。版画LABO・シルクスクリーン、リトグラフ担当講師の吉永晴彦です。

版画LABO立上げに際し、春先より多くのスタッフに支えられ少しずつ準備をしてまいりましたが、いよいよ7月にシルク・リトクラスも始まり、感慨深く過ごしております。

さて、先ず私がみなさまへ向けてお伝えするべき事は何かと考えた 時、作り手としての感覚から見たシルク、リトの魅力ではないかと思いました。
技法についての解説※は簡単に述べるに留め、なぜ今の今まで版を用いた表現を継続しているかを少し語らせていただきます。

リトグラフは特に難解な技法に感じますが、単純に描いたものがそのまま版となり、それを紙に刷る事が出来るとお考えください。繊細なデッサンのような表現や大胆な筆での表現が細かいトーンの変化諸共お好みの色味で紙へ刷る事が出来るというのがリトグラフという版画の大きな特徴です。またシルクスクリーンはリトグラフほど一版での繊細な表現には向かないものの、素晴らしい発色やインクの種類の豊富さ、単純な版構造である事からの工夫の余地がとても魅力的な技法です
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私は今でこそシルクスクリーンの作品を中心に発表しておりますが、元々はキャンバスなどを支持体とした、いわゆる絵画の作品を制作の要としておりました。その当時より手前と奥、空間の厚み、気配の集積に関心があり、積層の構造に色々な角度からアプローチを試みていたものでしたが、そんなある日、大学の授業でリトグラフを学ぶ機会に恵まれました。「リトグラフ」という言葉は知っていたものの実際どうやって作り出されるのか知りたいだけの興味本位で選択した授業でしたが、次第に楽しくなり制作の最中に何か自分の中でピタっと合った瞬間があった事を鮮明に記憶しております。作品の出来栄え自体は、今一つのものでしたが、技法云々ではなく、紙の上の図像が現れるプロセスに今までに経験した事の無い程の興奮を覚えました。

リトグラフやシルクスクリーンは原則一色に付き一版必要です。よって一版で完結する絵以外は数回刷らなければならないと言う手間がかかります。事実、私も「版画?何枚も同じ絵が出来ていいよね。」程度にしか思っておりませんでしたし、面倒な工程を経るのは遠回りで無駄な事では無いかと考えておりましたが、その無駄に見えたところに大きな魅力がある事に気付きました。版を重ねる行為は、元になるイメージが徐々に契機となった形自体への興味からそのものがどのような雰囲気に佇むのか、経験や記憶と結びついて変容する自身の制作過程そのものだったのです。リトグラフはドローイング感覚で版が作れて展開が早いという事がその気づきの要因かと考えられますが、全くもって思い掛けずの出会いでした。

大学院以降はシルクスクリーンでの制作が中心に変わりましたが、双方に共通する「層を重ねる」という行程に、特に抵抗もなく自然にシフトしていきました。併用もしていた時期もありますし、あまりこだわりはないと思います。 しかしながら、版画の作品制作で使うものの捉え方、考え方はあらゆる表現に影響を与え、いつでも根幹にあるなとつくづく思います。

版画への関わり方は人それぞれですし、一言に版画と言っても技法も表現方法も多岐に渡ります。

それらに楽しく触れながら、新しい感覚を摸索する道のりをみなさんとご一緒する日をお待ちしております。

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※技法についての解説
■シルクスクリーン
〈枠に張られたメッシュにインクが通る箇所「穴、孔」と通らない箇所を作り、その穴の部分からインクを紙などへ刷り落とす版画。故に孔版という形式〉

■リトグラフ
〈石版と訳され、元々は石灰質の強い石の表面を平滑に研磨し版としていた。石版石は現在では稀少価値の高いものとなっているので似た性質を持つ薄い金属板を代用する。よく誤解されるが石を彫って凹凸を作るのではない。石版石、あるいは金属板の平面上に油脂分の強い描画材を用いて絵を描き、その後化学変化をさせることによって描いた部分は水を弾き、描かなかった部分は水気を保ちやすい部分へとなる。版に水気を与えながらローラーで油性インクを転がし、水と油の弾き合う性質を利用して刷る版画。平らな版の状態から平版という形式〉

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吉永 晴彦 プロフィール

武蔵野美術大学大学院修士課程修了
武蔵野美術大学非常勤講師
和光大学非常勤講師

2003  第28回全国大学版画展 収蔵賞
2007  トーキョーワンダーウォール
2007 あおもり国際版画トリエンナーレ ACAC賞
2011  第9回バワン国際版画ビエンナーレ名誉賞受賞
2012  第6回ドウロ国際版画ビエンナーレ
2014  Mini Print Finland

1980年  東京都生まれ
趣味:星や宇宙について知ること、能楽