6月より版画ラボの銅版画講師を務める池田俊彦です。 僕の扱う技法は銅版画の中でも特にエッチングと呼ばれるものです。この技法は銅板の表面に防蝕膜を塗り、それを針で引っ掻き酸の中で腐食させることでイメージを描く技法です。線の密度の差や酸に浸けている時間を変える事で様々な濃淡や表情を産み出せるとても豊かな技法です。 さてこの腐食という過程ですが、天候や気温、腐食液の状態等、様々な外的な要因により、思い描いていたイメージをいい意味で裏切ってくれます。冬の寒い時期に腐食すればよりも繊細で詩的な線が、また逆に夏の灼熱の中では濃く野性的な線が、我々の意志とは無関係に立ち現れてきます。 僕は普段、祖母の残してくれた田舎の小さな家の庭で腐食の作業をしています。そこでは黒い腐食液の表面に、木々の緑、空の青、夕暮れの赤、月や星の白銀と様々な色彩が映り込みます。それは自然界の様々な事物が銅板に命を吹き込んでいくような神秘的で美しい時間です。
池田講師の作品 「老腐人」
6月より版画ラボがオープンします。こちらでは銅版画の制作に必要な様々な機材や道具が揃っています。ここで皆様にも僕と同じような素敵な銅版画体験をしていただければと願っています。
池田 俊彦
東京芸術大学大学院美術研究科(版画研究室)修了
平成18年度 文化庁買上優秀美術作品
Prints Tokyo2007 町田市立国際版画美術館賞
第1回 ドローイングとは何か展 最優秀賞
第5回 山本鼎版画大賞展 優秀賞
1980年東京都生まれ
趣味:映画鑑賞 読書